12/7(月)、第1回ウェブ学会シンポジウムに行きました。
さまざまな濃い話が聞けたので、今後のためにも書き留めておこうと思います。
Webには国境がないはずなのに、日本から世界に影響を与える研究・実績が出ない
松尾 豊先生(東京大学 準教授)による開会のあいさつにて。
やはりWebの世界でも日本は明らかに遅れている。
アメリカを中心として世界では、Webに関する研究が盛んに行われ、
産学両方面から研究・技術開発が行われている。
しかし、日本では研究対象としてWebが認められたのがつい最近のこと。
また、Webに関する議論や研究が、異なる複数の学会に分散してしまっていた。
そんな状況の中、ウェブ学会では3つのポイントを挙げている
1.学術とビジネスの連携
2.ウェブそのものを対象に
3.ウェブ時代の学会
研究者だけでなく、ビジネス界からの参加者も交え、
今日のウェブ時代に適した新しい学会の形があるのではないか、
という考えにはかなり共感した。Ustreamによるライブ、
参加者によるTwitter実況中継 をもちろん行いながら第1回ウェブ学会の開演。
コミュニティがコンテクストをつくりコンテンツを生み出す
橋本 大也氏(データセクション株式会社)、ウェブコラボレーションの先端事象にて。
“コミュニティがコンテクストをつくりコンテンツ(意味のある情報)を生み出す”、
この一連の波というか流れを生み出すのが、Diversity&Communication、
日本語でいえば、人々の多様性とコミュニケーション。
これらの事象を観察することにより、何かがブレイクするポイントや社会的な広がりの予兆を見つけることができる。
参加者の多様性と活発なコミュニケーションがあるところに、リスクとチャンスが存在しているという仮説や、
年齢、性別、地域、職業、社会階層、情報感度など複数の異なる属性を持つブログに普及し始めたら、
大ブレイクする可能性が高い(ex.マニアだけでなく普通の会社員も騒ぎ出した)というお話がとても印象に残った。
集合知には2つの意味がある
江渡 浩一郎氏(産業技術総合研究所 研究員)、Wikiとコラボレーションの過去・未来にて。
昨今、wikipediaをはじめ集合知という言葉が多くつかわれるようになったが、
集合知という言葉には2つの異なる意味がある。1つは、集団的知性(Collective INtelligence)。
これはある種エリート主義的な傾向を持った意味合い。たとえば都市や文明、学会がこれに当たる。
もう1つは、群衆の知(Wisdom of Crowds)。こちらは、反エリート主義的な傾向の意味合いを持つ。
群衆の知の一番のポイント・注目されている点は、普通の人の判断の積み重ねが専門家の判断を超える、という話。
その点でも集団的知性という意味合いとは異なる。現在多くの場で語られている集合知という言葉は、
この2つの意味が混じって使われているので、しっかり区別した方がいいのではないか。
コンピュータはぜ賢くないのか?何がたりないのか?
中山 浩太郎氏(東京大学 特任助教)、Wikipediaと知の構造化にて。
音声認識や翻訳、自然言語処理の分野で、なぜコンピュータはあまり賢くないのか?
それは、一般常識知識(コモンセンス)が欠如しているから。確かに、コンピュータって、
人間的に考えれば常識的にありえないよねっていう答えを返してしまう。
機械に一般常識を教えるプロジェクトは今までもあったけど、
現在はWikipediaを利用することが注目されている。
なぜWikipediaなのかというと、まず1つめの理由はWikipediaが知識(概念とその関係)
そのものを扱っているということ。通常はWebマイニングから知識を抽出するステップが
必要なのでこれは大きい。加えて300万ページ(概念)、1億リンク(関係)もの、
膨大なコンテンツ、半構造化データ、概念とURLの対応などもポイントにあげられる。
課題としては、情報の信頼性と判定方法、情報の偏りや不完全性の補完、スケールする解析手法など。
著作権の意図せざる結果
野口 祐子氏(国立情報学研究所 准教授、弁護士)、コラボレーションの法的課題にて。
現代では、創造のサイクルのなかで著作権の範囲が拡大し、権利者や著作物も多様化している。
もはや、従来の著作権だけで全てを規制することは限界が来ている。
小説とソフトウェアは商品生命の長さが違うし、データベースと音楽は使い方が全然違う。
また著作物の使用目的も非常に多様化している。このような差異をもはや著作権は吸収できない。
著作権法を変えれば?というのは現実的に無理。ベルヌ条約は加盟国全員の同意が必要で、
国際舞台でのコンセンサスが不可欠。ハリウッドを抱えるアメリカ、3ストライクルールのフランス、
アクセスを求める新興国の間で話がまとまるとは考えにくい。
そこで、事実に近いレベルを、うまく自由に使えるようにお互い権利主張しないようにし、
イノベーションに必要な部分はみんなで共有できるようにしなければならない。
アメリカは科学とハリウッドを別個に考え、柔軟に対応している。
日本は保護と交遊の使い分けがうまくいっておらず、例外規定のパッチワーク状態。
一般ユーザの声やニーズをもっと立法に届けることが必要。
実の世界から虚の世界へ情報のコンバージョンがどんどん進んでいる
長尾 真氏(国立国会図書館 館長)、ウェブ研究に求められるもの-課題と期待-にて。
国立国会図書館の館長としての、インターネット・アーカイビングの問題、電子納本の検討、
ネット世界の実態把握についてのお話は非常に興味深かったし、学ぶことも多かった。
早く日本も国策として、情報収集・分析を進めていかなければならない現状を痛感した。
でも一番重みが感じられたのが、Googleの本の電子化についてのお話。
Googleのブック検索では日本の著作物は扱わないことになった。
確かに今は日本の著作権者にとって朗報なのかもしれないが、
長期的にみると、日本の情報・存在が世界から無視されかねない。
電子化することはもはや必然の流れであり、結局自分たちでもなんとか仕組みを作って
世界に情報発信していかなければならない。そのことを忘れてはいけない。
これからはネットから情報を得る人の力が増幅される
藤末 健三(参議院議員、早稲田大学客員教授)、ネットがつくる新しい政治にて。
統計調査などからも20代、30代が主にネットから情報を得ているのは明らか。
また、ネットを利用することにより、よりリアルに身近に政治に触れることができ、
小口のネット献金によりクリーンな選挙も実現できる可能性がある。
これからは、ネットから情報を得る人がほとんどになっていくので、
そういった時代に合った政治を作っていかなければならない。
本格的なネット選挙の開始に向けて、今政府内部の議論で上がってきている問題点はなりすましと炎上。
この2つに関して政府としては炎上には対応できないと回答している。GoogleやYahoo!、
その他のプラットフォーム提供者に話を聞いたところ、
提供しているプラットフォーム上に限って情報を発信してもらえれば、
なりすましや炎上は防げるとの回答を得ている。したがって、候補者自身が使用するプラットフォームを
選択して情報発信する仕組みになるのでは、というのが藤末さんの個人的な見解。
日本において政治・選挙のWebプラットフォーム競争で、どこが主導権を握るのかは今後注目したい。
ネット世代は政治に消極的か?
佐藤 哲也氏(静岡大学 准教授)、政治的意思決定はどこまで自動化できるか?にて。
若者の中で政治行動・政治活動はタブー視されているが、関心が低いわけではない。
ネット世代は政治に消極的か?と考えてみると、そうではなくて従来の政治に嫌悪感や不信感を抱いているから、
投票には言っていない。佐藤氏の実感によると、環境問題をはじめとした社会問題に関心を持ち、
行動する学生は少なくないし、必ずしも社会に関心がないわけではない。
この世代をもっと社会に、政治に参加させていくために、インターネットを使って、
いかにネット世代の場を作っていくか、それが重要なのではないだろうか。というお話。
本当に納得、その通り。実際世界初のインターネット投票をすでに行っているエストニアでは、
ネット投票の得票率で与野党にかなりの差がでて、野党の躍進につながったとのこと。
やはりネットを使うことにより、もっと国民の声を政治に反映させていくことができそう。
300年ぶりの民主主義の再発明が必要
鈴木 健氏(株式会社サルガッソー代表取締役)、Divicracy:Dividual Democracyにて。
直接民主制か間接民主制か、硬直的な2つの制度しかない。
政党や利益団体といった、中間団体による委任の多層化により、
一人ひとりの思いが意思決定の結果に反映されにくい。
この近代民主主義の問題点を解決するために提案された伝搬委任投票システムは非常に面白かった。
自分自身の一票を0.3票と0.7票のように分割したり、異なる案に両方投票する、
自分が信頼できる人、任せたい人に票を託す。そもそも個人としての意思がしばしば矛盾するのを認めながら、
新しい民主主義を作る。このアイディアは本当にすごかった。1票を異なるテーマに分割して投票することによって、
自分が重視するテーマに重みづけできたり、情報技術を使ってテーマごとに各個人の1票を重みづけする。
こんな仕組みやアイディアは、これから人口が減ってくる日本こそ早く導入すべきだと思った。
本当の意味での民主主義がかなり国民に近づいてきている
川邊 健太郎氏(株式会社GyaO)、政治におけるネットの役割にて。
今年、日本の民主主義は大きく前進した。具体的には1.政権交代、2.事業仕訳、3.裁判員の3つ。
我々国民に一番大切なことは、責任もって決断すること。そして決断するために必要なものは、
豊かな情報。豊かな情報が国民の決断のリテラシを上げる。
そこで、この豊かな情報を提供するためにネットを活用しようというお話。
Yahoo!みんなの政治で、議案や議員について評価・コメントできるのは、
現在のところYahoo!のプレミアムユーザのみということ。、
先にも述べたとおり、今後選挙・政治プラットフォームのシェア争いは注目なので、
Yahoo!みんなの政治の動向も注目される。
UIはここ20年のコンピュータの進化に対して一番遅れている部分
楠 正憲氏(マイクロソフト株式会社)、ウェブが支える社会と科学の相互作用にて。
Bill GatesがInformation@Your Fingertipsと唱えて早20年。

あらゆるところにディスプレイが出現し、それらをどう活用していくかが現在の流れ。
コンピュータやウェブの進化について、扱う情報は近年劇的に増加した。
しかし一方でUIは、ここ20年間コンピュータの進化に対して一番遅れている。
したがって、今後一番変化し、進化していくのはUIであるというお話。
確かに、やっとipod touchから、”タッチ”が生まれて、ようやくキーボード+マウスから、
脱却できそうな予感はする。ユビキタス社会の到来につれて、
UIは進化していくのではないかと思った。
シンプルなインタフェースによってユーザとのインタラクションを生成しよう
今何かを調べるときに使われている検索クエリーは、ユーザの意図を伝えきれていない。
したがって、検索結果はユーザの意図と異なるものになってしまうことも多い。
しかし、より意図を伝えるために複雑なクエリをユーザに打たせることは難しい。
そこで、シンプルで直感的な操作・インタラクションによって、
検索結果を並び替える(ReRank)することによって、よりよい検索結果を表示する。
人の意図は検索クエリーよりも、もっと漠然としているという点に注目しているのが、
興味深かった。上記のUIの進化の話とも関連するが、検索エンジンもアルゴリズム
というよりも、検索UI、検索クエリーのリクエスト方法が進化していくのかなぁと思った。
ブログから社会と個人の変化を知る
稲垣 陽一氏(株式会社きざしカンパニーCTO)、ブログから社会と個人の変化を知る
-ブログ検索エンジンの研究開発について-にて。
一番びっくりしたのが、きざしカンパニーがかなり話題抽出、
ブログ分析について研究していること。他の研究にも参考にできるヒントが多かった。
ブログ分析によって話題の抽出・変化の読み取りをした延長に、
ブログの成分分析によって個人を知るサービス。さらには、その仕組みを使った、
情報ではなくて人の検索サービスという方向に移れないだろうか?というお話は、
非常に面白い流れだった。情報ではなくて、人を検索したい場合はブログの情報や、
Twitterの情報が大きな重みをもってくると感じた。
フォーマット・データの種類が異なり、一貫性のない正しくない文章を扱わらないといけない
ボッレーガラ ダヌシカ氏(東京大学 研究員)、ウェブから作る人工知能にて。
Webの情報を人工知能に利用するにあたって、知識ベースを作るために、
Webから情報の関係抽出を行う必要がある。しかし、Webからの関係抽出には、
フォーマットが異なり、データの種類が異なり、一貫性もなく、正しくない文章を
扱わないければならないという課題がある。この課題について今一度考えさせられた。
でも、関係類似性の計測の応用として、人間でも解くのが難しい類推問題を
解くことができるようになり、Webの新しい検索方法を提案できるのではないか、
というお話には未来を感じた。
最良のアルゴリズムは必ずしもスケールしない
工藤 拓氏(グーグル株式会社)、ウェブデータを使った統計的自然言語処理にて。
Google日本語入力のリリースに関連して、Web上の大量のデータを扱うときに、
いかにスケールするとが大切かというお話。一番早いアルゴリズム、
一般に最良といわれているアルゴリズムは大量のデータを扱うスケールが必要な
プログラムにおいては、必ずしも良い結果は得られないというお話はとても参考になる。
多少精度、信頼性を落としたとしても、簡単でシンプルなアルゴリズムのほうが、
大量のデータに対してはうまく動くことが多い。また、自然言語処理の分野でも、
世界中のWebデータを利用できるGoogleの優位性を改めて認識した。
リンクファームは非常に芸術的な構造
豊田 正史氏(東京大学 准教授)、10年にわたる国内ウェブアーカイブを用いた社会分析にて。
Webのデータを検索エンジンを通さず自分で収集していると、検索エンジンスパムのサイトが
多く混じってしまうそうだ。そこで、せっかくなので検索エンジンスパムのリンク構造を
分析してみたところ、非常に芸術的な構造を見ることができたというお話。

あきらかに中央一点集中で、人工的に作ったリンク構造というのが見て取れる。
また、Webを社会のセンサーとして考え、そのセンサーを通して社会をとらえたいという目標は、
時系列解析なども含め近いうちにいい結果がでそうな予感がした。
Webアプリケーションは技術的困難がほとんどなくなってしまった
伊藤 直也氏(株式会社はてな CTO)、コンシューマ向けウェブサービス企業における
サイエンスへの取り組み。自分もWebアプリケーションは大好きなのでこの指摘はまさにその通りだと思った。
現在のWebアプリケーションというのは昔からの延長でしかなく、ただ単純に
アプリケーションを提供するだけであれば、技術的困難がほとんどなくなってしまった。
あるとしたら、処理の負荷分散とかその辺りのことで、やりたいこと自体を実装するのは
非常に簡単な時代になってしまった。結局、もっと差別化できるような研究っぽい、
根本的な特徴になる技術、テクニック、ノウハウがないとビジネスにはならないんだなぁと痛感。